薬剤師の働き方には公務員として働くという働き方があります。公務員薬剤師は人気があるにも関わらず、実態があまり知られていません。どうすれば公務員薬剤師になれるのか、メリットやデメリットはどのようなものがあるのかなど。公務員薬剤師の働き方のアレコレについてご紹介します。
目次
公務員薬剤師とは
まず、公務員薬剤師には以下の3通りがあります。
- 国家公務員薬剤師
- 地方公務員薬剤師
- 麻薬取締官
受ける試験や職務内容はそれぞれ異なります。1つ1つ見ていきましょう。
国家公務員薬剤師
国家公務員薬剤師は、厚生労働省などの中央官庁で薬事行政に携わる業務を担当します。薬剤師として調剤をしたり、薬に関わったりするというわけではありません。
医薬品に限らず劇物・毒物や化学物質に関する安全対策を実施したり、残留農薬・食品添加物などの生活衛生に関わったりするようになります。
また、薬事法といった法令作りや薬の管理法案などを担当する場合もあり、その業務内容は非常に幅広いです。
一般の薬剤師はあまり関わることのない仕事内容も多いのが国家公務員薬剤師の特徴でもあります。
また国家公務員の場合、異動は全国各地になる上に他の部署への出向もあります。どこへ勤務になっても大丈夫という心構えが必要な働き方ということですね。
国家公務員薬剤師になるために
国家公務員薬剤師になるためには国家1種(国Ⅰ) 、国家2種(国Ⅱ)の国家試験に合格する必要があります。難易度が高いことから、合格者はエリートと呼ばれることも。
地方公務員薬剤師
地方公務員は都道府県や市町村での採用になる点が国家公務員との違いです。そのため全国転勤は無く、同じ県内など特定の地域で働くことになります。
地方公務員の場合地域に根ざした自治体内での仕事が中心となり、その就職先はさまざま。環境衛生評価などの行政に近いものから国立病院、保健所などにも勤務します。どの職場で働くことになるのかは実際に辞令が出るまで分かりません。また、異動もあるので「国立病院で薬剤師として働き、後に保健所へ異動」というケースも普通にあります。
一般的に公務員薬剤師といえば「地方公務員薬剤師」の事を指す場合が多いです。
地方公務員薬剤師になるために
地方公務員薬剤師になるためには地方公務員上級試験(薬学分野)に合格し、都道府県や市町村などで公務員として採用される必要があります。
麻薬取締官
麻薬取締官はいわゆる薬物乱用を取り締まるための機関です。違法薬物の捜査、医療用麻薬の監視などを行っています。また、麻薬や不正薬物の取り締まりを行うため不正ルートを探したり密輸を防止したりもします。
警察とは違いますが、犯罪に対しては警察と同様に逮捕権があります。加えて銃の携帯も認められています。これはおとり捜査など麻薬捜査は危険を伴うためです。
麻薬や覚せい剤、大麻、危険ドラッグの使用の裏を暴くために活躍するのが麻薬取締官だと考えてください。
麻薬取締官になるために
麻薬取締官は公務員試験ではなく、厚生労働省 麻薬取締部の試験を受けて麻薬取締官職として採用される必要があります。試験の内容や難易度は自治体や年次により異なります。
公務員試験の内容
公務員薬剤師になるためには、それぞれ公務員試験を受けなければいけません。国家公務員になるためには国家公務員試験への合格、地方公務員は地方公務員試験への合格が必要です。麻薬取締官については先に述べたように公務員試験はありません。
ここでは地方公務員薬剤師になるために必要な地方公務員試験についてご紹介します。
公務員試験の内容は都道府県や市町村によって異なりますが、一般的には以下の試験が行われます。
- 教養試験
- 専門試験
- 論文試験
- 面接
教養試験
教養試験は一般知識と一般知能があり教養を問われます。それぞれの科目は以下のようになります。
一般知能 | |
文章理解 | 現代文、古文、漢文、英文 |
数的処理 | 数的推理、判断推理、資料解釈 |
一般知識 | |
人文科学 | 日本史、世界史、地理、思想、文学、芸術 |
自然科学 | 数学、物理、化学、生物、地学 |
社会科学 | 政治、法律、社会、経済 |
まず、一般知能は文章理解と数的処理に分かれます。
文章理解は現代文や英文などの長文を読解するもので、数的処理では小中学校でやるような算数問題、図形的な問題、資料を読み解く問題が出題されます。
一般知識は基本的に高校でやる科目が出題され、難易度としてはセンター試験レベルと言えます。
専門試験
専門試験は法律系・経済系・行政系の分野で出題されます。種別によって試験が大きく異なり、専門試験はない場合も。難易度としては薬剤師国家試験よりも簡単なので心配しすぎることは無いでしょう。
論文試験
受験生の考察力、論理力、表現力などが試される試験です。800~1500文字程度の論文を書きます。
面接試験
公務員としての資質や性格を見極めるために1~2回の面接を受けます。公務員薬剤師の試験は年度や地域によって異なるため、質問の難易度や専門性の高さはそれぞれで変わってきます。
地方公務員薬剤師の勤務先
地方公務員薬剤師は勤務先や仕事内容が多岐にわたるため、職場や仕事内容のイメージがしにくいです。主な勤務先について見てみましょう。
国立病院や公立病院
地方公務員の薬剤師として採用されたとき、配属される確率の高い部署として国立病院や公立病院があります。一般の病院勤務の場合と同様に服薬指導や薬剤管理、病棟業務などが主な業務内容になります。急性期病院の薬剤師として
専門知識・経験を積むことになります。
保健所
国立病院、公立病院の他に地方公務員薬剤師が働く先として一般的なのが保健所です。地域によっては福祉保健所、保健福祉センター、健康福祉センターなどさまざまな名称で呼ばれています。
業務内容は病院薬剤師とは異なり、基本的には行政指導に関わることになります。薬事だけでなく食品や環境衛生など、多くの部署が存在します。市民にとって身近な部署であり地域の役に立っていると実感できることも多いようです。
- 薬事衛生
- 環境衛生
- 食品衛生
地域の調剤薬局やドラッグストアが新たに開業する際に新規開設許可を出します。またクリニックや薬局、病院などの医療機関が法律を守って運営されているのかなどを立ち入り検査を通じてチェックするのも保健所薬剤師の仕事です。
上下水道・大衆浴場・プールといった水回りに関する公的機関や、旅館・ホテル・公衆浴場などの宿泊施設、美容室といったサービス業に対する環境衛生施設の新規開設許可を出します。また、水質・害虫など環境衛生に問題はないか立入検査も行います
主に飲食店に対する新規開設許可や食中毒防止のための立入検査を行います。特に食中毒に関わる対応は他の薬事・環境と違って頻繁に発生します。地域市民への影響が大きい重要な業務です。
保健所の薬剤師が調剤を行うことはありませんが、このように許可・立ち入り調査を通して衛生や法律が守られるよう指導することがメインになります。
県庁や市町村役所など
都道府県庁や市町村役場には薬事衛生課や医薬安全課などのような部署が存在します。これらの部署では薬剤師を募集しており、専門家として働いている人もいます。
主な業務は企業に対する監視になります。医薬品の製造工場へ立ち入り検査し、法律の規定通りに運用されているか指導・確認をします。また、薬局やドラッグストアへの立ち入り調査や新規出店の相談を受けたりもします。
衛生研究所
都道府県や市町村によっては研究所を保有していることがあります。衛生についての研究を行う場所であり、製薬会社のように新薬を創るわけではありません。
有害化学物質の検査、食中毒を引き起こす細菌やウイルスについての研究や検査を行います。こうしたことを通して地域の健康被害を未然に防ぎ、市民の安全を守るのが仕事です。
研究施設では大学生時代に行ったような機器を用いて分析を行うことが多く、大学研究室での知識や技術を唯一活かせる公務員だといえます。
消費生活センター
企業に対する消費者からの苦情を受け付けます。例えば食中毒などの苦情報告を受けた場合、一次対応を行い その商品や店舗に対して原因究明・調査を行います。
公務員薬剤師の平均年収や給与
公務員薬剤師の給料は薬剤師だからといって優遇されることはなく、公務員は給与規定で年収が決定します。
初任給
公務員薬剤師の月収は約20.8万円(4年生大学卒の場合は約17.8万円)、これに地域手当・扶養手当・住宅手当などが規定に応じて加算された額になります。年収は300万円程度。
初任給が高いドラッグストアだと初任給から30万円超の企業もざらにある中で、これは非常に低い額と言えるでしょう。
給与が低いと言われている民間の病院薬剤師でも初任給は25万円程度です。もちろん、国家公務員と地方公務員では給料の額は異なりますし、自治体によって年収も多少の差はあります。しかし、公務員薬剤師の初年度の年収は非常に低いことを理解しておきましょう。
2年目以降の収入
2年目以降の公務員薬剤師の年収は500万円〜800万円程度になります。公務員薬剤師のメリットの1つと言えるのは定期昇給がきちんとしている点です。公務員は基本的に解雇される事も無いので、年齢が上がれば上がるほど給与が上がります。良くも悪くも、本人のスキルや実績に関係なく長く勤めてさえいえれば給料は自動で上がるのです。
調剤薬局やドラッグストア、民間病院を含め薬剤師は年収が上がりにくいです。薬局で経営層に食い込んだり、役職に就いたりでもしない限り基本的に給料は頭打ちになります。
長く務めても給料が変わらないとなるとやりがいを感じられなくなり、これが要因で転職を考えるという人も多いようです。
それに対して公務員薬剤師は、長く勤めていれば年収が上がります。初年度こそ年収は低いものの、数年後には調剤薬局やドラッグストアに勤務する薬剤師より高い年収を実現できることも。
公務員薬剤師のメリット
公務員薬剤師になるメリットは、何と言っても安定性です。薬剤師自体が資格職業でもあるので、元から安定性の高い求人、職場が多いと言えます。しかしその中でも公務員薬剤師の安定性は群を抜いています。
少なくとも、犯罪を起こしたり副業がバレたりしない限り公務員は解雇されることはありません。薬局や病院のように降格になったり経営難によって給料が減額されたりすることも無いです。
また、生涯年収の高さも大きなメリットの1つです。安定性に加えて定期昇給があるおかげで、長く働けば働くほど年収は上がります。
そして非常に整っている福利厚生も魅力的です。産休や育休は当然のように取得できますし、住宅手当や扶養手当まで支給されます。年金や普通よりも多い退職金が保証されていますので、安心して老後を迎えられるということになります。
公務員薬剤師のデメリット
良いことばかりのようにも思える公務員薬剤師ですが、デメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
1つ目はスキルアップが難しいという点です。公務員薬剤師としての業務は多岐に渡ります。中には保健所での立入検査業務や新規開設許可など薬剤師としてのスキルアップには繋がりにくい業務も多くあります。
薬剤師としての仕事がしたいと思い就職したのに、なんだか違うことばかりさせられている・・というミスマッチから、やっぱり薬剤師としての仕事がしたいと公務員薬剤師の道を辞めて民間の調剤薬局などへ転職するケースも少なくありません。
もう1つのデメリットとしては薬剤師でも公務員である以上避けられない異動の問題です。3年を目安に異動があり、それまでとはまったく関わりのなかった部署へ配属されることも多いです。
例えば、それまで国立病院の薬剤師として働いていたにも関わらず、保健所などへの異動によって今度は薬事行政に携わるようなパターンです。やっと仕事に慣れたころに他の職場へ異動も珍しくなく、薬剤師としてキャリアが築きにくいです。
病院薬剤師や民間企業の薬剤師であれば勤続年数で薬剤師のキャリアも分かってきますが、公務員の場合はそうもいきません。
良く言えば何でも担うジェネラリスト的な存在であると言えますが、悪く言えば積み重ねてきたスキルやキャリアがないことになります。民間企業へ転職したいと考えた時に面接などでキャリアを聞かれて戸惑ってしまうこともあるようです。
調剤経験が積めない、医薬品に特化した専門性をもつことができないことに大きなデメリットを感じている人は非常に多いです。
上でも述べた通り、公務員薬剤師の初任給は少ないです。長く勤務していれば定期昇給により民間企業や病院の薬剤師の年収水準以上になりますが、最初の数年は年収も低く我慢が必要とも言えます。
この時にドラッグストアなどに勤務している同年代と比較してしまうと、不安を感じたり仕事のやる気が無くなってしまうケースも多いようです。

メリットとデメリットをしっかり考慮する
公務員薬剤師は一般的な薬剤師とは働き方が大きく異なることから、公務員という枠の中でしか活躍できない薬剤師になってしまう可能性も無きにしもあらずです。民間企業や病院の薬剤師であれば、調剤スキルは自然と身についてきます。調剤スキルさえあれば、転職をしても基本的にはどの薬局でも通用します。
公務員は安定というメリットはあるものの、いくらその仕事を頑張ろうとも給与には影響しません。そして転職時に他の職場で評価されることもほぼありません。転職が出来ないとまではいかなくとも、競争率の高い職場への転職は難しいと言えます。
公務員薬剤師は自分の実力によって上に昇るのが難しい反面、リストラや給料が減額されたりすることはありません。安定しているから安心して仕事が出来るという人も居れば、もっとやりがいが欲しいという人も居ます。
こうしたことをしっかり考慮した上で、公務員薬剤師を目指すかどうかを決めましょう。
安定しているから公務員になっておけば間違いないと安易に考えてしまうのではなく、自分が薬剤師としてどうなりたいのか。何を目指したいのかまで考慮すると後悔しない就職が出来るでしょう。
公務員以外の働き方も視野に
手厚い福利厚生や安定した雇用、給与が公務員薬剤師のメリットです。しかし薬剤師の場合は公務員でなくても安定した給与と充実した福利厚生を受けられる職場があります。なので"第一条件は安定していること"と考えている人でも、公務員薬剤師しか道が無いわけではありません。他により自分に合っている職種はないのかをしっかり考えて選ぶようにしてくださいね。
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